日本の医療制度を守るために(医療介護CBニュース)

【第102回】白川修二さん(健康保険組合連合会常務理事)

 政権交代後、初となる来年度の診療報酬改定。昨年10月に行われた中央社会保険医療協議会(中医協)委員の人事では、日本医師会(日医)の執行部枠をなくし、12月に決定した改定率では、医科の内訳が初めて示された。従来にないスタイルが次々に打ち出された今回の診療報酬改定を、支払側委員として10月30日から議論に参加した白川さんに振り返ってもらった。今回の改定で実施される、レセプト電子請求が義務付けられている医療機関に対する明細書の原則無料発行義務化などを通じて、患者が主体的にかかわることで、医療費の適正化が進むことを期待している白川さん。そのお話からは、高齢化、医療の高度化が進む中、質の高い医療や国民皆保険制度を今後も維持するために、医療者、また患者に求められているものが見えてきた。(前原幸恵)

-就任から答申までおよそ3か月半。タイトなスケジュールで、膨大な議論を行われたわけですが、今、どのようなお気持ちですか。

 ほっとしています。診療報酬点数の算定要件にまで話が及ぶ中医協の議論には、正直最初は非常に戸惑いましたし、よく分からない状態の時もありました。支払側で毎回、開始前にディスカッションをしたり、また診療側の先生の率直な意見を参考にしたりもしました。まさに勉強しながら臨んだ中医協でした。ようやく今回の改定に向けての議論を終え、そこには支払側として主張してきたことが百パーセントとは言いませんが、かなりの部分入ったので、今、非常に満足した気持ちでいます。

-2月12日の記者会見で、政権交代の影響として、医科の改定率の内訳が初めて示されたことと、日医の代表が診療側委員から外れたことを挙げられました。改めて、この2点についてお考えをお聞かせください。まず、医科の内訳についてはどう思われますか。

 診療側の先生から「これは中医協の権限を侵すものではないか」というような発言がありましたが、わたしも同感です。あれは本来、中医協がやるべき仕事だと思っています。民主党の政策集の中に、地域医療を守る医療機関の入院について診療報酬を上げると明記されていたので、こういう提示をされたのだと思いますが、本来はやはり中医協でやるべき事項だと思っています。

-民主党の「政策集INDEX2009」には中医協の構成・運営などの改革実施が掲げられていますが、どうお考えですか。

 そもそも中医協の機能は法律で定められています。時間をかけて議論をして診療報酬の値付けをする機関で、その精神、法律自体を変える必要は、今のところ全くないとわたしは思います。支払側、診療側、公益委員、専門委員といった専門家が集まり、2年間かけていろんな項目について協議をして、少しずつ合意を形成していくという今の中医協のあり方は、非常にいい仕組みだと思います。

-次に、日医の代表が中医協委員から外れた影響についてお聞かせください。

 政権交代の影響を受けているとは思いますが、日医の先生方が委員から外れた影響となりますと、仮の話なので何とも申し上げられないのですが、中医協で議論が進んでいる間に、日医の方でもいろんな見解を「日本医師会の見解」として出されていました。その中には、中医協で決まったことに反対するような意見もたくさんあったと思いますが、仮に中医協に日医の先生方が委員でいたとして、見解と同じ主張をして、一歩も引かないという姿勢で臨んだのかというのは誰にも分かりません。中医協は、お互い少しずつ譲り合って合意形成をしていく場ですから、どこかで妥協点が見つかったかもしれません。
 支払側の勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)からは、明細書無料発行の件で、現在のメンバーでなかったら、通らなかったかもしれないというような発言もありましたが、わたしが思うに、明細書の発行についてはマスコミが後押しをしてくれましたし、公益委員の先生方もはっきり賛成とは言われませんでしたが、発行に向け支払側に近い発言をされていたように思います。ですから、実際に日医の先生方が委員になっていたとしても、最終的には合意に達したかもしれません。そういう意味では影響はなかったのではないかと思います。
 ただ、心配なこともありました。中医協は診療側と支払側に分かれて、診療報酬の値付けをする所ですから、組織がバックにあって、それを背負って交渉するのが宿命みたいなものです。それなのに、日本の医師の3分の2が加入している日医の代表がいないことは最初、少し不安でした。
 医師の組織としての代表は、やはり日医ではないかなと思います。病院は病院団体の先生が2人いらっしゃいます。政府関係のほかの審議会などと違い、値付けをする中医協は、コンセンサスを得るためにも、やはり医師の代表として選ばれた方々が委員になるべきだとわたしは思います。

-同じ会見で、「高く評価している。本当によかった」と述べられた明細書について、どういった効果が期待できると考えられていますか。

 公益委員の先生からは、明細書の発行は、医療に対する情報量が医者と患者の間で非対称になっているので、それを埋めるために必要だというご意見がありました。また、患者代表の勝村委員は薬害の証明という意味でも必要と主張していました。いろんな意味合いがあると思いますが、われわれ保険者としては加入者に対して明細書をうまく活用してほしいと考えています。
 例えば、普通のクリニックに行くと、「再診料」と「外来管理加算」が付きますよね。でも「外来管理加算」が何かというのは一般の方、ほとんど知らないと思います。診療報酬項目は医科だけで4000項目あるそうですから、もちろん全部を理解することは不可能だと思いますが、明細書の見方の留意点やポイントなどを健康保険組合が発行しているいろんな雑誌を通じて紹介して、その上でご自身にチェックしていただき、おかしいところがあったら病院や診療所、または健康保険組合に言ってもらうようになればいいということです。わたしたちは、医療費の適正化のために、明細書の無料発行は必要なツールだと思っています。

-白川さんは、患者にとって分かりやすい診療報酬体系へ向かうよう、さまざまな場面で主張されています。明細書の無料発行もその一つだと思いますが、そのほかに何かありますか。

 解決するには診療報酬体系をそっくり変えるしかないと思いますけど、それは難しいでしょうから、現実的に考えると、医療機関が自主的に患者に対して説明する姿勢を持つことではないでしょうか。
 例えば、今は「初診料」は270点ですが、これに「電子化加算」が付くと273点になります。患者側からすれば、医療機関によって270点だったり、273点だったりすると、当然疑問を持つでしょう。医療機関は「電子化加算があるからです」と説明するのでしょうが、「では電子化加算って何ですか」というのが普通の患者でしょう。ですから、患者がこうした疑問を持ったり、不信感を抱いたりすることがないように、病院の会計などで「私どもの病院ではこういう加算が付きます」と掲示をすればいいと思います。「電子化加算で3点加算されます」とか、「電子化加算はこういうものです」とか、そういうことをきちんと掲示すべきだと思います。そうしたとしても、患者側はなかなか分からないとは思いますが、少なくとも診療側には「私どもの料金体系はこうなっています」というのを患者に知らせる義務があると思います。
 現在、患者は原則3割負担ですし、日本国民は医師に対する信頼度が非常に高いので、分からないことがあっても自分の胸にしまって「分かりました」と黙って払っています。国民性でもあるのですが、医療機関側はこうした患者の姿勢に甘えず、料金体系を明示し、必要があればきちんと患者に説明をするべきだと思います。

-今回の改定で重点課題に掲げられた病院勤務医の負担軽減や救急、産科、小児、外科などの医療の再建。こうした現在の医療界が抱える問題を改善し、日本の医療制度を今後も安定的に運営していくためには、どうすればよいと思われますか。

 今、日本では、医療費が年平均約3%ずつ増え続けています。言い換えれば、毎年3%ずつ国民負担が増えているということです。この現状を何とか改善しないことには、根本的な解決にはならないのではないかと、わたしは思います。この伸びをできるだけ抑える努力を国民、保険者、医療界、政府などみんなで行わないと、安定的な制度運営はできないでしょう。今回の改定率の上げ幅は全体でたった0.19%です。一方、今年度の上半期の医療費の伸びは3.9%と発表されました。このギャップに国民もマスコミも注目すべきです。
 昔を思い出してみると、簡単な風邪などは、自宅でおばあちゃんの知恵などを頼りに治していたものですが、今はすぐ病院に行きます。そうした医療費というのは、国民経済的に非常に負担が大きいのだという認識を一人ひとりが持たなくてはいけないと思います。医療機関へのフリーアクセスのいい点だけでなく、問題点にも目を向ける必要があります。そうした意識改革なしには、安定した制度を確立することは絶対にできません。

-それぞれの立場でもっと抑制的にならなければいけないということでしょうか。

 そうではないでしょうか。医療が本当に必要な方は高齢化とともに増えています。医療の高度化も進み、その分コストも上がっています。これは世の中の進歩ですし、高齢化も含めやむを得ないことですが、一方では削れるところは削っていくべきです。このまま際限なく増えていけば、とても財政的に立ち行きません。このままいけば、何十年か先には、国民負担が過重となり、国も医療への投資ができなくなり、保険者も負担に耐えかねて破綻という事態になるでしょう。そうならないためにも、国民全体で議論してコンセンサスを形成していくなど、いろんな工夫を少しずつ積み重ねるしかないと思います。
 生まれた時からフリーアクセスで、負担額は少なくて、世界的にもかなりレベルの高い治療を受けられるのが当然だというふうに国民は皆思っていて、空気と同じように医療を考えていると思いますが、それでは駄目です。例えば3割負担ではなく、10割窓口で支払い、後で7割を償還するというふうにすれば、少しは医療費負担の厳しさが分かるかもしれないと思いますが、そうすると治療費を払えない人が続出するので、もちろんできません。ただ、医療を取り巻く環境はだんだん厳しくなっています。そんな中で、診療報酬を上げるという解決策ではなく、医療機関も国民も無駄を省き、一人ひとりが自分のかかわる医療について目を向け、考えることでの改善が今、求められていると思います。


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